アイツはまるで、蝶々みたいだ。
「うわー!すごい人〜!」
PM9:00。
空間から零れ落ちてしまうんでないかってくらいの人が、この花火大会に密集している。
調子にのってお面を三個くらい付けてる奴。
テンション上がって大声を出す奴。
いつもよりキラキラしたアイシャドウをつけてる奴。
「クラスでお祭りに行こうぜ!」という呼びかけで集まったクラスメイトは、なんだか煌びやかだ。
「はぐれないか心配…。」
そう言ったどこか甘ったるい、高めの声に俺の耳はピクリと反応した。
…よかった。
美丘も来ている。
美丘の声は例えるならば、綿飴のようで。フワフワっとした中に、さらに砂糖のような甘さの音色が俺の耳を浸透していって。
まとわりついて、まとわりついて、一度聴いてしまったら中々離れない、そんな声だった。
「美丘はすぐどっかにフラッとしてしまうもんな。」
さりげなく、美丘の隣をキープして。
美丘のリンゴ飴によって紅くなった唇は直視したらヤバイから、真っ直ぐ前を向いて話しかける。
アイツはまだ、来ていない。