「錐乃くん、暑いねえ」 「…うん、暑いな」 もう交わせないと思った言葉。 もう伝えられないと思った想い。 ……全部、叶ったね。 ぎゅっと手を握り返せば、さらに強い力が返ってきた。 大丈夫、わたしはここにいるし、錐乃くんもここにいるよ。 瞳を閉じれば、泣き顔の彼がこちらに手を振っている気がした。 ばいばい、泣き虫きりのくん。 おかえり、可愛い錐乃くん。 聞こえないはずの蝉の声が煩い―――夏はまだ、始まったばかりだ。 ...fin.(20140830)