『わ……すれ……な……い……で……』 僕はその声に目を覚ます。 車内は話し声ひとつ聞こえない。 運転席の後ろについたモニタが出す、昔の映画の音と、バスの挙動の音しか聞こえない。 みんな眠ってしまっているのだろうか。 僕は隣を見る。 江口さんは僕の方に寄りかかり、柔らかい腕を僕に預けている。 時折、細かに睫毛を震わせ、規則正しく、控えめな胸を上下させていた。