――送ってくよ
石川君にそう言われたあの一瞬、このあいだみたいに瑞貴と鉢合わせしたらまずい、と。
そして今度は、そんな危惧を抱いた自分自身に戸惑ってる。
風に揺れる柔らかそうな石川くんの髪の毛を見上げる。
同い年で、180センチ近い長身で、少し鼻にかかるような低い声を持っている石川君。
ふたつ年下で、身長は私より少し高い程度で、低いけれどまだ下がりきっていない透明な声を吐く瑞貴。
石川君の背中を間近に見ながら、階段前に佇んでいた瑞貴の頼りない背中を思い出す。
胸の中に薄い霧が広がっていく――
彼氏が自宅前で弟と鉢合わせしたからといって、
いったい何がまずいというの……?


