キスぐらいで何動揺してんだよ――と、そう思われていそうで。
慌ててシンクに向き直り、再びニンジンの皮向きに取り掛かる。
年上なのに、瑞貴よりも取り乱している自分がとてつもなく恥ずかしい。
これだから恋愛経験値のない私はダメなんだ。
冷蔵庫を閉めた瑞貴が、バッグを手に階段を上ろうとする気配を背中で感じる。
ぎしり、とステップの一段目を踏んだ音が響いた。
そのまま、弟はいつものように階段を上っていくんだろう。
そう思っていた。
けれど――
最初の一段を踏んだ後、しばらく経っても階段の軋みが聞こえてこなかった。
変だな、と思った瞬間、
「ごめん」
小さな声が聞こえた。


