「もしもし」
『あ、沢井さんのお宅ですか?』
聞こえてきたのは可愛らしい女の子の声だ。
それは少しだけ震えていて、緊張している様子が否応なしに伝わってくる。
『あの、瑞貴くんいますか』
鼓動が早まるのを感じながら「えーっと」と語尾を濁すと、私の言わんとするところを察し、彼女は慌てたように続けた。
『あ、江崎です。同じクラスの江崎そのみ……』
「江崎さん? ちょっと待っててね」
子機を持ってそのまま階段を駆け上がった。
クラスメイトの女の子から瑞貴に電話がくるなんて、初めてかもしれない。
なぜだか妙に胸が騒いでる。
石川君とのことで気まずくなってる瑞貴に声をかけなきゃいけないから?
胸の中のもやもやとしたものを吐き出すように、深呼吸をしてから弟の部屋をノックした。


