だいたい、滅ぼさなきゃいけない罪なんて……。
ふっと頭の中に瑞貴の背中が思い浮かんだ。
廊下に佇んで、震える声を落とした背中。
いつの間にかハンバーグのタネを捏ねていた手が止まっていた。
ぺっとりと肌を汚す脂(あぶら)みたいに、心の奥もべたついていく。
あたしに罪があるとすれば、それは瑞貴の気持ちを知りながら、石川君とのキスシーンを見せてしまったこと。
たとえそれが石川君からの一方的な行為だったとしても。
ため息まで一緒に混ぜ込むように、タネを楕円型に成形してボールに並べた。
手についた脂を一旦洗い流し、コンロ下の棚からフライパンを取り出そうとした瞬間、ダイニングキッチンにベルの音が響きわたった。
階段脇に置かれた電話が、オレンジ色に明滅している。
家族はみんな個々に携帯電話を持っているから、家の電話が鳴るのは少し珍しい。
一瞬だけぽかんと電話を見つめてから、ベルに急かされるようにして受話器を取り上げた。


