私の意識は、柔らかに重なる石川君の唇よりも、背後に向かって飛んでいた。
さっきまで聞こえていた、地面を引きずりながら歩くような足音がぴたりと止まり、
瑞貴が、こちらを、見てる気配――
「いし――っ」
私が石川君を押しのけるよりも早く、彼自身が私から離れ、瑞貴の方を振り向いた。
その顔に、おどけたような笑みを浮かべながら。
「へっ、どーせ、俺はサルだし?」
うきゃきゃ、と楽しげな声を出すと呆けている私に「じゃあな、いちか」と言って、
石川君は瑞貴がいる方とは反対方向の、駅に通じる道を歩き出した。
私は何も答えられず、固まったまま、動くことができなかった。
石川君の背中を見送ることもできずに、その場に停止する。


