徒歩20分の道のりは、自転車だと半分もかからない。
「送ってくれてありがとう」
塀沿いに自転車を停めてから石川君を振り返る。
彼にはまだ、ここから駅までの徒歩10分の道のりが待ち受けているけど、だるそうな顔なんかひとつも見せずにニコニコ笑ってくれている。
「おー、夕飯作り頑張ってな。今度、休みの日に時間あったらどっか行こうぜ」
「うん」
強要はしない、優しいお誘い。
気を遣ってくれてるのが分かって、胸が温かくなった。
「お?」
ふと、石川君が何かに気づいたように声を漏らす。
その目は私の頭上を越えて背後に向けられていて、なんだろう、と思って振り返った瞬間、
向こう側から歩いてくる人影が目に入った。
白シャツに、千鳥格子のズボンと、斜めにかけた通学カバン――
心臓が小さく跳ねる。


