不安定な横座りをしているせいか、スピードが出ると振り落とされそうで――
死ぬ――――!
「たーのしー!」
失神直前の私に気付かず、石川君はふわっ毛をたなびかせて風になっている。
その広い背中に思い切りしがみついた。
心の中でお経を唱えているうちに、凶器にすら思えていた風はいつの間にかもとの穏やかな空気に戻っていた。
「いちか、平気?」
悟りでもひらいたのかと思うくらいの清々しい笑みを浮かべ、長い足を地面について石川君は自転車を停止させた。
「平気、くない……です」
恐怖のあまり少しだけ恨めしげな声を出すと、彼は風でよれた髪を直しながら意外そうにつぶやいた。


