大きな腰に腕をまわし、広い背中に心持ち、寄りかかるように身を預ける。
白いシャツに耳が触れ、布越しに微かな体温が伝わってきた。
「じゃ、行くよ」
ちょっとだけひっくり返った声には照れが含まれていたのかもしれない。
石川君の背中にくっつきながら、風に運ばれるようにして通学路をさかのぼる。
穏やかな日差しは春が残した忘れ物みたいで、もうすぐ梅雨の季節が来るなんて微塵も感じられない。
途中にある下り坂まで来ると、石川君の声が前から流れてきた。
「しっかり掴まっててな」
「え?」
次の瞬間、坂を下るのと同時にペダルを漕ぎ出す。
緩やかな坂道をくだるはずの自転車が急激にジェットコースターに変わる。
「ひ、やあああ!」
悲鳴が溢れて、そんな自分にびっくりする。


