「いちかっ」
仲間から離れ、白い歯を覗かせながらこちらに駆けてくる石川君は、さながら飼い主を見つけた犬のよう。
「迎え来てくれたんだ」
「うん」
どうせ駅までだけど、一緒にいられる時間をもっと大切にしようと思って。
もちろん、そんなことは口に出せないけれど。
私はもっと、自分から積極的に石川君と距離を縮めた方がいいんだ。
頭の中をぐるぐると回るのはユリの声。
――石川君も可哀想だし――
本当だよ。
彼氏を避けたりして、あたしは今まで何をやってたんだろう。
並んで玄関口を抜け、いつものように自転車を取ってくると、石川君はハンドルを取って嬉しそうに笑った。
「今日こそ送ってく」
その笑顔に一瞬だけ、心臓が不安な音を刻んだけれど――
「うん、ありがとう」
私は石川君がハンドルを握る自転車の後ろに乗った。


