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迷うべくもない。
私の彼氏は石川君で、瑞貴は大事な弟だ。
弟は、恋愛対象には――
――なり得ない。
一日の授業から開放された生徒たちがここかしこに溢れる。
午後の日差しが窓から斜めに切り込む廊下を、まっすぐに歩いていった。
目指すは9組の教室。
教室のドアから流れ出てくる生徒たちをやり過ごして、教室内を覗く。
ふわふわ頭の彼氏は窓際の男集団の中で健やかに笑っていた。
声をかけるには微妙に遠い距離。
どうしようかな、と悩んでいるうちに、集団の中の1人がこちらに気づき、「おい、彼女」というふうに石川君の肩を叩いた。


