『部下の人が、社長殺していいの?』


『いいんだよ。だって暗殺を止めた時点で、その人は社長なんかじゃない。

ただの裏切り者なんだ。


だから、母さんは殺した。

言っただろう?

母さんは、死ぬのが堪らなく怖かったんだ。


だから言うんだよ、葵。


あんたも、諦めな、って。

親しい人を作ると、辛いよ、って。』



葵は、ぱちぱちと瞬きした。


10歳の少女は、考えた。

逃げ道はないかと。



けれども、利口な彼女が考えても考えても、逃げ道なんかなかった。



死ぬ。


それはあまりに現実味がなかったけれど。


自らの手で殺したあの人が、恐怖で怯えた顔を見た。

どんどん冷たくなっていく体を触った。


それに、母さんは、あたしを大切だと言ってくれた。

殺したくないと。



葵は――頷いた。


頷く他に道などなかった。



『あたし、諦める』


それが、葵の結論だった。