葵は驚きであんぐりと口が開いた。


『大切?あたしが?』



母親はふわりと笑った。

初めて見せられた、あまりに優しい笑顔だったという。



『大切だよ。

だからこそ母さんの二の舞にならないように、厳しくしたんだ。


朝霧家を継ぐ者には、かなりの精神力と体力、知力が必要だからね。

無ければ困る。


部下に頼りにされなければ、どうにもならないんだ。



それに、人と深く関わると・・・・・・

もしその人を暗殺した時、ショックでどうにかなっちまいそうだからね。



母さんはなりかけた。


ある人を・・・親友を、殺した時。』



葵はぱっと目を見開いた。


『親友・・・殺したの?』



母親は平坦な顔で頷いた。

空っぽだ、と葵は思ったらしい。


『殺した。暗殺のターゲットになっちゃったんだ。

殺す時・・・・・・まだ、好き、だったよっ。


すっごく明るくて、優しかった。

母さん、その子のこと、大好きだった・・・。


でも、どうしようもなかった。

止められなかった。止めたら最後。部下達に殺される。』