「愛川もう帰った方がよくね?両親心配してんじゃね?」

そう坂井に言われ、時計に目を向けると、あと五分で9時になるところだった。

家かぁ……

親…心配なんかするわけないじゃん。

帰って来るなとか言うくらいだもん。

あたしが一晩帰ってこなくったってなにも思うわけがない。むしろ、ずっと居なくいいって思ってるはずだ。

それに、母親はあたしが帰って来ると、がっくりした顔をするんだ。

その光景を見ると、いつも胸が痛くなる。

……あたしはここにいていいのだろうかって。

「愛川?どうした?」

あたしが無言で時計を見つめていたから不思議に思ったのか、坂井が口を開いた。

「ううん、じゃあ、帰ろうかな?」

あたしは、カーディガンを羽織りバックを持つと、坂井に声を掛けた。

「今日はありがとね。すごく楽しかった」

「どーいたしまして。ってか、送ってくよ」

振り向くと制服の上にカーディガンを着て準備準備万端の坂井が立っていた。

「えっ?準備はやっ」

「男だからな。行くぞ」

「うん」

♪〜

「ごめん、メールかも」

バックの中からスマホを取り出すと、メールボックスを開いた。

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今日は帰ってくるの?

亮があんたのこと、まだ帰ってこないのってしつこいんだけど…あんた亮になんかしたわけ?

もう、今日は帰ってこないで

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とかいてあった。

あたしは、その文を読んだ瞬間クラッとめまいがして、その場でしゃがみ込んだ。

「大丈夫か?」

そんなあたしの姿を見ていた坂井はかかさずあたしに近づいて来て。

「坂井…助けて…あたしあたし…」

「わかったから。だから話さなくていい。ここじゃなんだから、部屋行くぞ」

そういって坂井はあたしをお姫様抱っこをして寝室へと運んだ。

「よいしょ。大丈夫か?気分はどう?」

坂井はいろいろ言ってきたけど、なにも答えられなくて、頷くことしかできなかった。

「ちょっと、待ってて」

坂井はそう残して、寝室を出て行った。

坂井がいなかったのは三分くらいだったのになぜか、すごく長く感じた。