「なーに悲しい顔してんだよ。
ったく!しょうがねぇから、笑顔になる場所連れてってやるよ!」







いきなりそう言われて
自転車に乗せられて、風に当たること30分……。



着いたのは
誰もいなく、静かな海。




「ここ……」



小さく呟いた声は坂井には聞こえず波の音に持ってかれた。




「二人だけだから、どんなことだってできるな」



ふざけた坂井の言葉にもなにも言えなかった。


「愛川も大の字になってみろよ。星が綺麗だぞ」




坂井の言われるままに大の字になると、星がすごく綺麗に光っていて、寝っ転がってるせいか空がどこまでも繋がってる、そんな気がした。




「きれい……」







「えっ?どうしたんだよ?」



突然声をかけられはっとした。



「えっ、なに?」




「泣いてる……」




手を頬に近づけると冷たいものに当たった。


それが涙だと理解するまで時間がかからなかった。




洋服の袖で何度拭っても、止まるどころか次々とあふれでてきた。




坂井の手が目元に触れ、ビクンとしてしまった。



「涙が自然に止まるまで俺が何度でも拭ってやる」




坂井にばれないように微笑んだ。





……こういう優しさにあたしは何度も救われてきたんだね。



***



「落ち着いた?」


「うん。あたし坂井に迷惑ばっかりかけてる…」



「気にすんな」



「坂井が優しすぎて怖い……」



「俺はいつもやさしつーの」



「はいはいー」







「ここに連れてきちゃだめだったか?」




急に真剣な顔をした。



「ううん、平気」


「じゃあ、なんで苦しそうな表情なんだよ。なんかここであったのか?」



「ここよく来てたんだよね。
愛華と色々あって、家にも帰りたくなくて、学校帰りによく来て大声で泣くの。どんなに叫んでも大泣きしても波の音が消してくれるから。夜とかも来たり。
ここにいると、なんか周りは静かなんだけど、1人じゃないみたいでさ」




「ごめんな。
辛い場所に連れてきちゃって」



「大丈夫……」




そう言いながら坂井の方を見る。



「そうは見えないけどな」




「あたしはこうなんだよね。
愛華とよく通った道とか遊んだ場所行くと
自分でもわからないうちに泣いてたり苦しくなるの。そんな自分が嫌になる」




「そういう風に思うのは、そんだけ誰かを大切に思ってたって証拠だろ?なんにも思ってない奴のために涙なんかでねぇよ。
何度も言うかもしれないけど、お前は悪いことはしてない。信じられなくなったのは、愛華ちゃんを大切に思って信じ切ってたから。

信じてたから、だからこそ信じられなくなった。
そう思ったら楽にならね?」




「………っ…」







「ずっと悲しみと苦しみ、そして悔しさと戦ってきた。
褒めてやろう?
よく頑張ったなって。
自分の心、楽にしてやろう?」





悲しい過去を忘れることできる?