ガチャってドアの開く音がしたと思ったら坂井の声が聞こえた。


「ごめんな…。」




顔をみなくてもわかる。



声が泣いてる。




「俺じゃ、頼りになんねぇかもしれないけどお前のことは守るからな」




「言ったろ?お前のことあふれるほどの愛で照らしてやるって。愛川のことだから忘れちゃったか…?」



坂井は次々と言葉を続ける。



「俺さ、苦しいことばっかだったんだよな。それで、自分だけが悲劇のヒロインぶって。なんで俺がって…俺ばっかりって。つらいことばかりあると、前が見えなくなる。未来が怖くなる。いつの間にか臆病になってるんだよな。なにをするのにもびくびくして。ほんとの自分も失くして、もう笑えないんじゃないかって思ったりもする。


でも、俺は"愛川"って存在に出会って、笑顔を取り戻せた。


過去に縛られてる自分が情けなくなった。


過去がどんなに楽しいものだったとしても、辛いものだったとしても、今には勝てねぇよ


辛くても、苦しくても、どんなに悲しくても、底に落ちてしまっても…。


未来にまで絶望はしちゃダメなんだな」





まるで、独り言のように次々と言葉を吐く坂井。




「心にある思い出は時に自分を苦しめる…けど、そういうのを上書きして行くために出逢いがあるんだろうな。

一度ついた傷は消えない


どんなことがあっても、心にあり続ける




でも、小さくしたり薄くしたりって言うのはできるんだな


楽しくても、忘れられなくても過去。


俺はこれからの未来を信じたい」





ねぇ、坂井………




どんな思いで話してるの?



過去より…今。




あたしは……


まだそう思えないよ。



過去はあたしにとってすごく濃いものなの。



それを、思い出にして進むなんて…



今のあたしにはできない。