苦しみを耐えたものだけに幸せはある



本当にそうなのかな?



「優心!出て来なさい!!!」



部屋のドアを何度も叩く音。



ヘッドホンの音量をあげてもあげても聞こえてくる声。





いつまで、続くの…?



あたしは幸せになっちゃいけないの?





なんで、あたしばっかりつらい思いをするの?



あたしは……、


何度心を傷めればいいのだろ。


まるで、神様に幸せになるなって言われてるみたいだよ………



不安に押しつぶされそうになったとき、
机の上にあるスマホが動く。



「愛華……」



【今会える?】





シンプルメールだった。





「ゆーあー!!なんであんたは!ってあんたなにするのよ!」




そんな声が聞こえて、ドアがいきなり開く。



あたしはとっさに目をつぶる。




「優心、大丈夫?走るよ!」




「えっ?」




腕を強く掴まれただただついていくしかなかった。






「ばか!なんで呼んでくれなかったの?!うち、優心のこと助けたいんだよ?なんで、1人で抱えるの!!」



夜の公園のブランコに座ると、愛華の怒鳴り声が響いた。



「あたしさ、いらない子なんだよね。家にいると、ばくばく言ってるの、心臓が。次はなにが起こるのかなってびくびくしながら、毎日いっつも気が休まないんだ」





「なんで、そんな辛いこと1人で抱えるのよ…。うちの言葉は信用ならないかもだけど守れるよ、優心のこと」



「いいの。もう慣れたんだ、こういうの」


「そんな顔して慣れたなんて言わないで!辛いとき、悲しいとき泣かないでいつなくの?うちさ、優心と涙も笑顔も分け合いたいよ。うちね、頼りないし、一度優心を傷つけた…いや一度じゃない、何度もだよね。そんな人だし信じなくていいよ。うちが信じる。」




「いきなりどうした?」




「色々考えたんだ。長瀬くんに言われた。お前は心友って言葉にとらわれすぎだって。そう言われて思い出した。優心と出逢ったこと。優心と過ごした毎日。そういう日々が楽しかったこと。あー自分大事なこと見落としてたなって思ったんだ。
世の中には失われたものを頑張って取り戻すやつもいる。その1人にお前もなれよ!だって。笑っちゃうよね。
傷つけたらその分取り戻すしかない。初心をさ、忘れずにぶつかり続けることが大事で、過去のことを後悔してる時間があんなら、今をどうするか考えろ」



長瀬くん……。



あたしたち、みんなに助けてもらってばっかだね。



きっとひとりだったら、自分とそして愛華と向き合うことなんてなかった。



「少しづつ進んで行けばいいんだよね。急がず、うちらのペースでさ」



「うん!」



「ねぇ、靴投げしよー」


「いーよー!負けないからねー!」




立ち漕ぎで勢いをつけると、靴を飛ばした。



「おぉー!結構飛んでない?これは勝ったね」



「行きまーす!おりゃ!」



片足でぴょんぴょんしながら靴の元へ向かう。




「やったー!うちの勝ちー」




「たまには靴投げもいいね!」


「でしょ?夜の公園ってよくない?涼しいし」



「でもひとりだと怖くない?」



「まぁね。うちん家行こ?」


「悪いからいい」



「遠慮しないでよ。やだって言っても連れて行くけど。ほら!」




いつになったら、家族になれるのかな。


笑いあえるのかな。




どこにいても、ふたりでいても、なにをしてても



不安はいつもそばにある