「なに?あたし早く帰りたいんだけど」
震える声を気づかれないように冷たく言った。
「なんかあっただろ。他の奴は騙せても俺は騙されねぇよ?」
そんな目を見ないで欲しい。
嘘だと気づかれそうになるから。
「なにもない。坂井の勘違いだよ」
「俺には言えないこと?」
「坂井には関係ないでしょ!!」
大きな声に坂井は目を見開いた。
でも、それはたった一瞬だけ。
「最近変だよ、愛川。なんかあったんだろ?」
「なんもないっていってんじゃん!もういいっ!帰る!」
勢いよくベンチを立ち、坂井の手を振りほどいで走った。
最後にみた坂井の顔がすごく悲しそうだった。
でも、あたしの見間違いだよね。
「…うん、見間違いだよ…。」
月も星もなくさみしい空だった。