あふれるほどの愛を


「大丈夫」

「えっ?」

突然そんな声が聞こえてびっくりする。

愛華にはあたしの考えてることがわかるの?

「優心の気持ちは分かる。けど、頑張るから」

「うん…」

そう力強く言われても、あたしは力弱くしか返事が出来ない。


それから、すぐファミレスをでたあたしたちは少し歩いた。


その間は、愛華がドラマの話を振ってくれて合ってからはじめて会話が弾んだ。


「ねぇ!あそこ座らない?」


愛華が指差したのは反対側にあるベンチ。

「いいけど」

「じゃ、けってー」

そう言って愛華はさっとあたしの右手を掴んで走り出した。

急なことに体が一瞬ふらついた。

「はぁ……疲れた。早すぎなんだけど」


「少しの距離走っただけじゃん!」


確かに反対側まで行っただけだけど、愛華が早すぎるっ!

「走るの楽しんじゃなかったっけ?」

意地悪そうにあたしを見る。

「もう、何年だったと思ってんの!」

「二年くらい?」

あたしは思い出していた…。

中学に入り、愛華と仲良くなって、愛華は走るのが得意だった。その反対にあたしは走るの大嫌いだった。

マラソン大会が近づいて来たある日、このままじゃゴールできないんじゃ…と心配した愛華が企画した『走れ!走れ!
マラソン好きになるぞ会』というおかしな会。

内容は放課後校庭を走る!という単純なもの。

最初は嫌で仕方なかったんだけど、回を重ねて行くと、走るということの楽しさを感じることができてきた。

その結果、マラソン大会では今まで最高の順位を取ることができたのだった。

だからって、その体力が今だに残ってる訳がない。

「またやっちゃう?今度は『走る!走る!体力復活っ!』みたいな感じで」

「もう、結構!」

「そっか。やりたくなったらいつでも言って。うちはいつでもウェルカムだからさっ」

今にもかかってこい!と言わんばかりな愛華。

確かに楽しくなったのは事実だけど、もうやりたくはない。

「それはないから」

「後で、ピンチになって教えてって頭下げても教えないからね」

「平気だから」

「あのさ、もしだよ?もし、うちが頑張って優心の信頼を取り戻して前みたいになれたら、行きたい場所があるんだ」

「行きたい場所?」

「そう。優心は覚えてないかな?辛いこととかがあるとその場所に行くんだ。なんか力が湧くんだよね、そういう場所。いつか、また優心と行きたいんだ」


また…っていうことは、あたしも行ったことがあるってことだよね?


…考えても見つからなかったけれど。


「わかった、いいよ」

そう言うと、っしゃ!と喜んでいた。

その様子を見てあたしは声を出して笑ってしまった。

それにすぐ気づいた愛華がどうした?と声をかけてきた。