「ふふ。優心困ってる」
「へっ?」
「顔見ればわかるよ今めっちゃ考えてるでしょ?」
ま、まあね。
簡単には『いいよ』とは言えるわけがない。
人は一度裏切られたら、傷ついたら、1歩を踏み出すのには時間がかかる。
それに、同じ相手と来たらなおさらだ。
「ごめん。こんなこと言って。本当は言うつもりなかったの。優心を困らせるだけだって思って。でも、後悔したくなかったから。この偶然を無駄にしたくなかったから」
「…偶然…?」
「そう。優心が倒れてお姉ちゃんが助けてこれって運命みたいな偶然じゃない?だから無駄にはしたくなかった。自分が傷つけてなんだけど、優心が離れて行ってすごく寂しくてさ。自業自得なんだけど。離れてから優心の存在が大切で大きかったんだってことに気付いてすごく後悔した。なんで人は失ったりしてから大切なものに気付くんだろう。それじゃあ手遅れなのに…」
大切なものは失ってから気付くもの。
あたしも愛華と同じように思ってた。
でも、なんかわかった気がする。
人はたぶんそばにいると、それが当たり前に思えてきちゃうんだ。
その人がいなくなるなんて想像できないんだ。
その人がいることに当たり前すぎて。
でも、失ってからじゃ、遅い。
あたしもそうだったんだよね。
愛華を失ってから、隣にいたことが笑いあってた、そのことが当たり前じゃないことに気付いた。
それも奇跡みたいなんだ。
この世界に“当たり前”のことなんてないんだ。
「ほんとだね。人間は失わなきゃ気付かないんだね」
「そうだとしたら、優心とこうやって離れて時間を過ごして寂しい気持ちに押しつぶされた時もあったけど優心のこと大好きで大切な存在って分かったからその感情も無駄じゃなかったのかな…でも、優心にとってはそういう風には思えないよね。
…本当にごめんなさい」
―――ズキン
胸が痛む。

