黙ってしまったあたしをみて坂井はふっと笑って

「愛川から連絡してこなかったら、俺が掛けるからな!」

「無視する」

「おい!じゃ出るまで掛けるから!」

「わかった、わかったから!でも一つ質問に答えて。流すとかなしだからね」

「はいはい。で?しつもんどうぞ」

「なんで、あたしにそこまでするの?」

あたしがそう言うと坂井は大きなため息をこぼして一言。

「またその質問かよ。だから理由はねぇって」

「そんなことないでしょ?ほかの女の子には作り笑いばっかりしてるくせになんであたしには…

あたしに優しくする理由が坂井にはないでしょ?」

「理由はない。でも一つだけ言えんのは、俺は愛川が大切。

あの日、初めて見たときから。あんときは泣いてて今にも消えそうだった愛川見て…女子の涙は武器って俺もそう思ってったからさ、お前もそうかなって思ったけど愛川見てたらそうは思わなかった。誰も居なくなった教室でうずくまって泣いてた愛川を見て俺が救ってやりたいって思ったんだ。こいつの笑った最高の笑顔が見たいって。

そう思ってたから、そうなったんじゃねーのかな」

なに、なんなの?

なんで坂井はあたしの心のドアを、

あの日かたく閉めた心のドアを開けようとするの?

あたしのドアはもう誰にも見せない、開けさせないってかたく誓ったのに…

もうやめてよ…

これ以上あたしに優しくしないでよ!


ーーーードンっ

静かな部屋に響く音。

テーブルを叩いて立ち上がるあたしに坂井は驚きを隠せない様子。


「あたしには誰も必要ない!あたしを見てくれる人はこの世にいない!
言っておくけどあたしを誰にも必要としてない!みんなあたしの事を裏切るんだよ!どうせ坂井だってそう。

あたしのことなんかどうでもいいくせにっ」

「ちゃ、ちょっと落ち着けって。愛川!」

そんな坂井の声も今のあたしには聞こえていない。

「坂井だってそう!いらなくなったらゴミのように捨てるんだから!
あたしはいらない子なの!
生きてても意味ないの!

だからあたしはほっといて」


お願い…

あたしを嫌いになって

そんな思いをを込めて坂井の家を飛び出した。


「愛川ーー!」

ドアが閉まる直前にあたしの名前を呼ぶ坂井の声が聞こえたけど、あたしは振り返らずに走った。

あたしに行く宛てなんてないのに……。