「…帰ろっか」


大きい手で顔を覆う梢に呼びかける。
はい、と返ってくるが、立ち上がる気配は無かった。

栄生はそれまでずっと隣で待っていた。

二人が車に帰った頃には、もう雨は止んでいた。ただの通り雨だったらしい。

「あんま、見ないでください」

「ふふ」

男の涙なんて珍しく、栄生は楽しそうに微笑む。梢は不本意そうに窓の外へ顔を逸らした。

「さっき、何を思ったんですか」

「さっき?」

「墓の前で」

こちらを見ようとしないので、栄生も諦めて前を向いた。

「梢のお母さんに、梢は優しい人に育ちましたって。そう報せといた」

「…死んだ人間も驚きますよ」

「そう? でも母は偉大だから」