夜香花

 あの娘は、はっきりと真砂を敵視していた。
 この里に入り込んだ以上、死体以外で出る方法はない。

 『まつ』として千代と共にあったあの娘を、真砂が殺さなかったのなら、この里のどこかに、まだいるはずなのだ。
 真砂が殺さなくても、里から逃げようとした時点で、誰かに必ず殺される。
 そういう里だ。
 逃げられないのなら、まつは真砂を狙い続けるだろう。

 千代は腕に刺さった苦無を掴むと、振り向き様、入り口の影に向かって投げつけた。

「ひゃっ」

 高い声がし、影が慌てて引っ込む。
 真砂だけに神経を集中していたので、千代の攻撃は想定外だったようだ。

 その隙に、真砂は床を蹴った。
 千代を飛び越し、入り口に迫る。
 そこにいた深成が、ぎょっとした表情で、身体を反転させた。

 何とか家からは離れたが、いくらも行かないうちに、真砂に腕を掴まれる。
 呆気なく、深成は真砂に捕まった。

 深成の腕を捻り上げ、真砂は、にやりと笑った。

「いっ……たたたた」

 掴まれた腕に、深成は苦痛の表情で涙を浮かべる。
 真砂は胡乱な目になった。

「あのな、お前。一体どういうつもりなんだ。本気で俺を殺す気があるのか?」

 痛い痛い、と言いながら、小さく暴れる深成は、果敢に攻めてくるかと思えば、情けなく泣きべそをかく。