「もしさ、あのとき、わらわが真砂のほうへ行かなかったらどうした?」

 少し、真砂の眉が寄る。

「真砂が迎えに来てくれたとき、別に何の約束もしてなかったじゃん。わらわの気持ちだって、わかんないでしょ。もしかしたら、わらわは小十郎様のところに行くのを、楽しみにしてたかもしれないよ?」

「そうかな?」

「真砂だって、来いって言っただけじゃん。迎えに来たって、言ってくれればいいのに」

「来いっつったら来るだろ」

「何でよ。わらわ、真砂よりも小十郎様を取るかもしれないじゃん。やだって言うかもよ?」

 少し頬を膨らます深成に、真砂はにやりと口角を上げた。
 そして、ぎゅ、と深成を抱き締める。

「そんなこと、言わすかよ」

「わらわが逃げたらどうするの。わらわの気持ちが真砂にあるって、自信があったの?」

「さぁな。でも、そんなことはどうでもいい。俺がお前を欲した。それが全てだ」

 つまり、自分が深成を欲しくなったから、奪いに行ったということだ。
 例え深成の気持ちが真砂になくても関係ない。
 そのときは、力づくで奪うのだろう。

「怖いなぁ」

 そう言いながらも、深成は嬉しそうに、真砂に抱きつく。
 この真砂に、これほど愛されている幸せを、深成は真砂の腕の中で、しみじみと噛み締めるのだった。



*****おしまい*****