夜香花

 真砂は黙って深成を見ていたが、やがて懐剣を自分の帯に突っ込んだ。
 そして、腰につけていた袋を取る。

「丸腰でうろうろするなと言ってるだろ。あまりないが、持っていけ」

 差し出されたのは、苦無の袋だ。
 受け取った感触から、二、三本ぐらいだとわかる。

「でも、これ貰っちゃったら、真砂は?」

「阿呆。俺のことより、てめぇのことを心配しろ。お前こそ、このままだと丸腰で旅することになるんだぞ」

 顔をしかめて言う真砂に、六郎がいきり立つ。

「於市様に向かって、何だ、その口の利き方は。大体お主は、立場をわかっているのか? 於市様は大名の姫君だぞ。お主など、本来口も利けないようなお人なのだ。心配しなくとも、それがしが命を張って於市様をお守りする」

 ぐい、と深成を引き寄せて言う。
 が、真砂は、ふん、と鼻を鳴らした。
 そして、ずいっと深成に顔を近づける。

「ずっと俺といたお前ならわかるだろう。俺はそもそも、人など信用しない。まして、いきなり現れた奴など論外だ」

 強い瞳で言う。
 例え旧知の仲の六郎であっても、油断するなということだ。
 わかりやすく、ざっくり言うと、『気をつけろ』と言っているのだ。

 深成の目が熱くなる。
 このままだと決心が鈍りそうで、深成はくるりと身体を反転すると、そのまま歩き出した。
 いつの間にか六郎が、すぐ前を歩いて先導する。