夜香花

「やっぱり深成は、頭領の傍にいないと駄目だよ」

 捨吉が縋るような目を向けるが、深成は、う~ん、と俯いた。
 眉間に皺を刻んだ真砂が、ため息と共に口を開く。

「お前は何故ここに残りたい。九度山に行けば、肉親がいるんだろう。生活も保障される。何を迷うことがある」

「……」

「婿取りだって、いきなりではないだろう。初めからそれが目的ではないと、こいつも言っているじゃないか」

「それは……そうだけど」

 ぼそぼそと言う深成に視線を落とし、真砂は、とん、と自分の左腕を叩いた。

「これの責任を感じているのか? それこそお門違いだぜ。お前のようなガキに頼らんでも、俺は生きていける」

 きゅ、と唇を引き結んで、深成は真砂を上目遣いで見た。
 深成自身も、何故ここに残りたいのかはわからない。

 九度山に帰れば肉親がいる、とはいえ、そうそう記憶もない。
 だがそれを差し引いても、確かに真砂の言うとおり、ここよりも遙かに良い生活は出来るだろう。
 それだけでも、帰る価値はあるのだ。

 だが。
 じ、と深成は、真砂を見つめる。
 帰れば、多分もう会えない。

---傍にいたいけど……---

 深成がここにいたい、という根本は、それだけなのだ。
 だが深成が傍にいることが、真砂の、ひいてはこの党の利にはならない。
 むしろまた危険に晒す可能性がある。