夜香花

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 真砂のように力のない深成には、蔦一本で身体を支えることだけでも至難の業だ。
 おまけに、雨に濡れた岩は滑りやすい。

「馬鹿。ただぶら下がってるから動けないんだ。地面に水平になるぐらい、蔦を引き絞れば、岩の上に身体を立てられる」

「そ、そうは言っても、そうするだけの力が、わらわにはないんだもん。あんた、そんなに元気なんだったら、上まで上がれるんじゃないの?」

 ぶらぶらとぶら下がりながら言う深成に、真砂は振り向いた。
 簡単に登っていたように見えたが、今まで見たこともないような、余裕のない表情だ。

 そもそもすでに、ふらふらだったのだ。
 もう体力も残っていまい。

「早くしないと、俺だって限界なんだ。お前は小さいから良いが、俺がここで気を失ったら、誰も運べん。お前らが俺を見捨てられないというのなら、俺は自力で動くしかないだろうが」

 吐き捨てるように言う。
 だが、深成は少し安心した。

---真砂だって、人のこと、ちゃんと考えてるんじゃん---

 真砂が無理をしてでも自力で移動するのは、捨吉や深成に迷惑をかけないためだ。

---これ以上ごちゃごちゃ言われるのが、鬱陶しいのかもだけどさ---

 多分、そっちのほうが大きいのだろう。
 それでも深成は嬉しく思う。

「わかったよ! わらわは頑張ってついていくから、真砂はとにかく、その洞穴まで頑張って!」

 そう叫ぶと、深成は蔦を握って踏ん張った。
 真砂に言われたとおり、思いきり蔦を引いて、それを支えに岩を登る。

 真砂のように、走ることは出来ないが、最悪はぐれても、大体の場所は聞いたし、そのうち戻ってきた捨吉が連れて行ってくれるだろう。
 とにかく懐に入れた火打ち石が濡れないように気をつけながら、深成は懸命に岩山を登っていった。