夜香花

「! と、頭領!!」

 捨吉が、真砂の左腕に気づいて叫び声を上げた。
 いまだ血が流れる傷口を確かめ、顔面蒼白になる。

「頭領……。腕が……」

「そういうことだ。片腕の乱破なんぞ、いらんだろう。とっとと行け」

 ふい、と顔を背けて言う真砂に、捨吉は迷う素振りを見せた。
 が、すぐにがばっと、真砂の右腕を取る。

「何言ってるんです。腕の一本ぐらいで、見捨てられません」

 そう言って、岩山のすぐ下に移動すると、蔦葛を手に取った。
 それを真砂に手渡す。

「頭領なら、片手でも中腹の洞穴までは行けるでしょう。とりあえず、そこにいてください。俺が、必要なものを持って後から行きます」

 きびきびと言い、次いで深成に視線を転ずると、岩山の右のほうを指差した。

「ここを向こうにずっと登っていくと、あの辺りに横穴がある。入り口がわかりにくいけど、頭領に教えてもらえばいいだろう。一緒に行って、お前もそこにいなよ」

 説明しつつ、捨吉は懐から小さな袋を取り出して、深成に渡した。
 火打ち石だ。

「濡れないように注意しなよ。とりあえずは暖まらないと」

 じゃあ頼んだよ、と言い、真砂に頭を下げると、捨吉は地面を蹴った。
 器用にしばらく木を伝って上のほうまで行き、途中から蔦葛を使って登っていく。

「真砂。行こう」

 深成が声をかけると、真砂は、ふぅ、と息をつき、右腕を捻って、持った蔦葛を手首に巻いた。
 とん、と軽く地を蹴ると、まるで平地を行くように、ほぼ垂直な岩肌を走り出す。
 深成は慌てて後を追った。