夜香花

「あんたの所業に、むかついてたからね」

 当時を思い返す真砂に、深成は、ふん、と鼻を鳴らした。
 そんな深成を、真砂はじっと見る。
 己のしたことを忘れているのかと、深成は、ばん、と膝頭を叩いた。

「だってあんた、あのときわらわに何したと思ってんのよ。殴るわ蹴るわ、あんたのお陰で二回も気失ったんだよっ! わらわは、あんたよりも随分子供だし、まして女の子なんだから! そのわらわに対して、手加減してやろうって気はなかったわけ?」

「てめぇに刃を向ける奴に、手加減するなんて馬鹿がいるか。そんなことはどうでもいい。お前が恐れもなく俺に向かってきたのは、ただ単にむかついたからだけだったのか?」

 そうだとしたら、ちょっと呆れる。
 腹が立っただけで、相手のこともわからないまま突っ込んでいくなど、愚の骨頂だ。

「もちろん、お方様の仇討ちとも思ってたよ。でも蹴られた仕返しに、あんたに一発入れてやろうって思ってたのも事実」

 言いながら、ぶん、と深成は拳を真砂のほうに突き出す。

「あんなにめちゃめちゃに痛めつけられたことなかったからさぁ、ちょっとでも復讐したいじゃん」

 続いて、い~っと真砂に向かって顔を突き出す深成を、真砂はさらっと無視した。
 ひょい、と深成の手から、懐剣を取る。
 そして、刃先に少しついた自分の血を、指で刃に伸ばした。

「……これっぽっちじゃ足りんか……」

 さして酷く斬られたわけではないので、血も大して出ていない。
 頬からの血も、もうほとんど止まっているようだ。
 その傷口に親指を当て、真砂は乱暴に傷を撫でた。
 乾きかけていた血が、頬に伸びた。