夜香花

「何を慌ててるんだ。いついかなるときでも攻撃するのが、刺客の仕事だろ」

 頬を流れる血を気にもせず、真砂が言う。
 目は依然、刀身に釘付けだ。
 なら今、思いきり懐剣を横に振れば、刀身は真砂の首筋に吸い込まれるのでは。

 だが深成は、固まったように、懐剣を握りしめたまま動かなかった。
 しばらくして、真砂がちらりと深成を見、身体を起こした。

「頭領。何かわかったんで?」

 捨吉が、はらはら、というように、真砂と深成を交互に見ながら口を開いた。

「……お前、これで人を斬ったことはあるか?」

 真砂の問いに、深成は、とんでもない、という風に、勢い良く首を振った。

「そ、そんな物騒な目に遭ったことないもの」

「懐剣自体を、実際に使ったことはないってことか」

 産まれてからずっと乱破として育った捨吉には信じられないらしく、驚いたように言う。

「そのわりに、俺に突っ込んできたときは、躊躇いなかったな」

 懐剣を使ったことのない幼子(おさなご)が、いきなり人に向けて振るえるものだろうか。
 しかも、殺らねば殺られる、という状況ではなかったはずだ。

 むしろ、真砂に見つからないよう、それこそ息を潜めて隠れていたほうが安全だったはずだ。
 たまたま殺さなかっただけで、興味を覚えなければ、このようなガキ、あのとき真砂は殺していた。