夜香花

「……随分若いんじゃないのか」

 確か細川の城主は、四十かそこらだったはず。
 爺、というほど老齢ではない。

「だから、わらわが爺って呼んでただけで、実際はそんなおじぃちゃんじゃなかったんだって」

「お前は何で、そいつを爺と呼んでたんだ?」

 三十や四十なら、深成の父親でもいいのではないか。
 だが深成は、口を尖らせた。

「だって、爺は父上じゃないし。爺は父上のことは、よく話してくれたからさ、爺が父上じゃないってことはわかるじゃん。爺のことについても、ちらっと聞いたことはあるんだよ。でもとにかく、父上に仕えてたってだけで、詳しくはわかんなかった。見かけがさ、何か、老けて見えたような気がする。わざとそうしてたのかもしれないけど、それで、わらわは爺って呼んでたんだ」

 それなりの歳になってから考えてみると、深成を育てた爺は、真砂の里の長老のように年老いていない。
 よくよく思い出してみれば、記憶の中の爺は、随分若々しいのだ。
 理屈からいっても、長老のような老人が、小さかったとはいえ深成のような子供を負ぶって山道を駆け抜けるなど、無理がある。

「爺は、自分の本当の姿を隠すために、姿形を偽装してたのかな」

「……ま、ありがちだな」

 忍びの者であれば、珍しいことではない。
 実際は若い者が、年寄りに化けるなど、お手の物だ。

「お前に隠す、というよりは、周りにバレないようにしてたんだろう。己の存在を隠してまで、お前を匿っていたということか」

 一体深成は、どういう娘なのだろう。
 単なる赤目の残党、というだけではないような気がする。