夜香花

「ま……確かに素人でも、乱破の里に、簡単に入り込めるとは思わないだろうな。罠があることぐらいは、察知できるか」

 顎を撫でながら、真砂が言う。

「待てよ。そこまでは想像できても、こいつが来たのって、夜の夜中だろ? あの夜は確か、完全な闇夜ではないにしても、月明かりだって十分にはなかったはずだぜ。あの罠だって、一カ所だけじゃない。それを確実に避けられる時点で、普通じゃないだろ」

 清五郎が当時を思い出しつつ言った。
 深成が真砂の家に乗り込んだときは、清五郎はいなかったが、次の日真砂のところにやって来たときには、すでに深成のことは知っていた。
 おそらくあの夜、真砂と一緒にいた千代から聞いたのだろう。

「よっく見れば、どこに縄が張られてるかぐらい、わかるもん。わらわ、目良いから」

「目が良いだけで、全て避けられるような罠でもないんだがな……」

 何でもないことのように言う深成を見ながら、真砂は呟いた。
 注意してさえいれば避けられるような罠は、罠の意味がないのだ。

 罠を避けられても、そればかりに気を取られていれば、乱れた気配をたちまち察知される。
 気配を絶つだけでも相当な集中力がいるのに、その上縦横無尽に仕掛けられた罠を全て避けるなど、相当な手練れでないと出来ない業だ。

 この阿呆なガキが、簡単にそれをしてのけた、ということが、やはり信じられない。