電車が駅に着き、腰の曲がったお婆さんが乗ってきた。


 電車内は下校中の学生たちで溢れている。


 ドアの付近に立っていた私は脚元のふらつくお婆さんを眺めていた。


 お婆さんはドアの前の手すりに掴まった。


 ドアの左側に私、右側にお婆さんが立っている。


 お婆さんの横ではギャル風の女子高生たちが携帯をいじっている。


 隣にお婆さんがいるのも気にならない様子だ。


 席を譲ってあげればいいのに・・・女子高生に面と向かって言えない自分が情けない。


 文句を言われたら嫌だなぁと思ってしまう。


 お婆さんは左肩にバックをかけ、脚元に買い物袋を置いた。


 結局、私は何も言うことができずに、外の景色を眺めた。



 「○○駅~、○○駅~」


 アナウンスが入り、ドアが開く。


 王子様の住む駅だなとぼんやりと考えていたその時、事件は起きた。


 向かい側の席に座っていたキャップをかぶった男がお婆さん目掛けて突進してきた。


 男はお婆さんのバックをひったくると、そのまま電車を降りてしまった。


 突然の事に何が起こったかわからず、口をぱくぱくさせているお婆さんを見て、追いかけなきゃ!と体が反応していた。