サァァ───っと、僕達の髪の毛が風に揺れる。涼しいな……。もう5月か……。

「サボりって初めてかも!」

「私も!」

「私は、何回も」

……ずっと、僕は優の事を勝手に優等生だと思い込んでた。だけど、意外に違ったのかもしれない。
優が、適当に屋上の真ん中に座るとチカとカナもバラバラに座り出す。

「まえの学校で、よくサボってたの?」

チカが、サラリと聞く。優は、一瞬顔を怯ませてから直ぐに笑う。

「まぁ…ね…」

「…………?」

僕達は、優の異変に気付く。優の…弱い心が、僕には見えた。どうしたんだろ…?まえの学校で、何があったんだ?

「優様は、まえの学校で何かあったの?」

「ちょっ……、カナ……」

「………まぁね」

「……何があったの?」

「…………私」

「「……………」」

「卑怯者なんだ……」

「えっ?…何で?」

カナが、空気も読まずに聞く。
本当に、僕はカナの無神経さには、ちょっとビックリする。
優は、短い溜め息をついて、ポツリポツリとゆっくり話し出す。

「……私の、まえの学校には、イジメが普通だった。……勿論、私のクラスにもあった……」

「……………」

「で、ある日……。私がターゲットになった。原因は単純。……こんな性格だから。私は……イジメにあう事は何となく分かってた。逆に、何で今までイジメられなかったか不思議な位に……」

「こんな性格……?」

「うん……。私、何でも思った事を口に出しちゃう悪癖があるんだ。だから、こんな性格だからイジメられた」

「そんな風には見えないね……」

チカが、少し苦笑いする。優も、ふふっと笑って長い瞬きをする。

「でも、リーダーの女の子が『アンタを虐めるの飽きた』って言ってきたの。その後『だから、今度のターゲットはアンタが決めろ』って言ってきた…。私は、断った。だって、私のせいで誰かが傷付くのを見たくなかった……」

「えっ?……誰か選んだの?」

「うん……」

「誰を選んだの?」

「………私の親友」

「「「……………」」」

……何で?親友って思ってる人をわざわざ選んだり……。

「何で?って思ったでしょ?親友なのにってさ……?」

「………うん」

「それが、普通の反応だよ……」

目を細めて、優が僕を見つめた。…その瞳には、涙が溜まってた。

「それで……。その時、私の親友が、ソイツらの前で言った。『優、私を選びな』って。私は、嫌だって言ったのに……。『アンタを助けれなかった私を選べ』って……。そしたら、リーダーが……。『じゃあ、決まり』って……。私の目の前がぐらついた。崩れた。壊れた……」

「……………」

「私は、声が枯れる程、ヤメてって叫んだ。何度も、何度もリーダーに言った。だけど、笑って親友が言ったの。『私は、卑怯者なんだから当たり前だ』って。笑顔をで…。優しく、温かい笑顔をで……」

「……………」

「私の、せい…で…。大、切な…人を傷付…けた…」

優の瞳から、ポロポロっと涙がとめどなく零れ落ちる。その姿は、儚くて、小さくて、弱くて……。
【──守りたい──】
僕が初めてカナ達以外の女の子に思った。でも、カナ達に思ってる感情と、どこか違う。

あれ……?コレって……。

……心が動いてる、ドクンっと高鳴った。激しく動いた…。

恋……?コイ……?こい……。

「………でも、そん、な時期に……転校が決、まった…の…。助かった…。逃げたくない…。嬉しい…。嫌だ…。離れたい…。離れたくない…。…色んな気持ちが複雑に、絡まって絡まって絡まって……。いつしか、……。誰も、信用出来なくなった……」

「ゅ…ぅ…」

「私が、強かったら…。私が、卑怯者じゃなかったら…」

「もぅ、良いよ………」

僕が、止める。もう、辛い事を、思い出す必要は無い……。

「私が……。……逃げなけ…」

「うるさいっ!!!」

僕は、優に向かって叫ぶ。カナもチカも…優も…。目を見開いて、ビックリしてた。

「れっ、レン?急に……どうしたの?」

「優、君は弱くない。……僕を助けてくれた。君は卑怯者じゃない。……僕の事を守ってくれた。君は…逃げてない。……僕に希望をくれた……」

「…………っ」

優は、手の平で涙を何回も何回も拭ってた。でも、涙は止まる事を知らない。…優は、無理矢理笑った。ごめん、ありがとうって僕に言って。

「人を信用出来ないなら…。少しずつ、少しずつ……。進めば良いじゃん…。僕も、進むから…。一緒に、進もうよ」

「…ぅ…ん…。ぁりがとぅ…」

優が、顔を上げて腫れている目で、笑顔を見せた。ドクンっと、心臓が思いっ切り動いた…。
あぁあ、顔が物凄く熱い……。

「優様!可愛い!」

「本当だね!宇宙人と同じ位可愛いよ!」

「褒められてるか分からないよ……」

「「「……アハハハ!!」」」

優のツッコミに、何故か皆が笑った。笑いすぎて、屋上に先生達が来てサボってたのが、バレてしまった。まぁ、直ぐ終わったけど……。

『この日から、僕は変わった。…イジメが、無くなった。友達も、前より増えた。
…でも、その中で一番変わったのは…。
僕の視線は優にしか向かなくなった。』