河辺くんの後ろに見えた黒い影は、銀色に光る棒を振り上げる。

そしてその棒は、河辺くんの頭をグワーンという音とともに捕らえた。


河辺くんは、そのまま廊下に倒れこんでしまった。



暗がりでよく見えないけど、その黒い影はまちがいなくあたしを助けてくれた。


あたしは九死に一生を得た。




「持田さん…大丈夫?」


その声は弱弱しくて震えていたけれど、最高にたくましくてかっこいい。


「遠藤くん…遠藤くん…あたし、あたし、怖かったよ…」


あたしはワンワン泣いた。

あたしより10センチほどしか大きくない男の子の胸の中で。

遠藤くんの耳たぶがおでこに触れた。

とっても熱いよ。

普通こういうとき、女の子の背中に手をまわすものって思ってたけど、遠藤くんはがちがちに固まっていた。

直立不動の胸の中であたしは泣いた。