手加減を入れて投げられたボールを、淳君は受け止め、また城島君へと放り返す。

「……試験勉強は、しないの?」

淳君に言われ、ボールを受け止めた城島君は、肩を竦める。

「教科書、失くしちゃったから」

城島君は、ボールを床へと置くと、その場に腰を落とした。

淳君もカーディガンで額の汗をぬぐいながら、城島君の隣りまで行き、その場に座る。

「それ、本当?」

私が訊ねると、城島君は真顔で頷いた。

「何の教科?
俺、去年の教科書とってあるし貸すけど……」

淳君に言われ、城島君は「ありがとうございます」とだけ答えた。

何を失くしたか正確に答えなかったのは、それが嘘だからではないのだと分かる。

もう探さなくても良い、新しいのを買わなくても良い……そう、彼なりに表したかったのだろう。

「向き不向きってあるじゃないですか……」

城島君の言葉に、淳君は無言のまま頷く。

「俺、運動の方は割と人よりできる方なんですけど、勉強はまったくできないんです。
小学生の頃から、有り得ない程学習が遅くて、なかなか実にならなかったというか……」

そう言いながら、城島君は眉間に皺を寄せた。

淳君は膝を組んだまま、黙って彼の話に耳を傾けている。

何だか似ている2人の間に入って行く勇気がなく、私は少し離れたところに腰を下ろす。

「勉強だけじゃなくて、本当色んなことに支障が出て来て、当然のように小学校では浮いてました。
担任も両親もお手上げでしたし、上級生からもバカバカってからかわれることが多かったんです」

そこまで言って、城島君は言葉を切った。

あれ……と独り言のように呟いた彼は、慌てたように私へと視線を向ける。

何か不味いことでもあったのだろうかと私が首を傾げると、彼は気まずそうに視線を漂わせてから立ち上がった。

「すみません、ちょっと顔洗って来ます」

早口に言って立ち上がると、城島君は体育館から出て行ってしまった。