間抜けな音を立てて、バックボードにぶつかったボールはあてずっぽうな方向へと転がって行く。

「城島君……試験中はさすがに体育館使ったら駄目だと思う……」

2階席に立つ私と淳君を、城島君はしばらく呆けた表情で見上げていたものの、やがて髪をガシガシと掻いて、昨日と同じように2階へと跳んで来た。

いきなりジャンプだけで上って来た彼に、淳君は一瞬ギョッとしたような表情を浮かべたものの、彼が4月に会った男子だとすぐに思い出したらしい。

「久しぶり」と低い声で呟いた。

城島君も明るく「久しぶり!」と言い、淳君の肩をばしばしと叩きながら彼の隣りへと立ち直す。

まるで幼馴染みかのような馴れ馴れしいふるまいに淳君は再び目を見開いたものの、すぐ諦めたように視線を城島君から外した。

「色々ツッコみたいことあるんだけど、1つ良いかな……」

小声で淳君に言われ、城島君は「何?」と淳君の顔を覗き込む。

「お前、熱あるだろ」

淳君は鬱陶しそうに城島君の腕を払いのけてから、彼の肩を両手で掴む。

城島君が何か言い訳をする前に、淳君は彼の額に自分の額を勢いよく叩きつけた。

まるで石と石をぶつけあわせたような鈍い音の後、2人ともズルズルと床に座り込む。

「なんで……あんな勢いよくぶつけたの……」

額を押さえて蹲った淳君から後ずさりをしつつ訊ねる。

「熱の測り方ってこれで合ってるだろ……」

うめき声を交えながら弁解をする淳君を無視して、私は城島君の横に腰を下ろす。

「城島君、頭大丈夫?」

額を押さえている彼の手をそっと外し、見事に赤くなっている額へと触れる。

じんわりとした熱と、不自然な汗が指先に感じられた。

「先輩、その言い方傷付くんだけど」

私の手をひきはがしながら城島君が笑う。

「34+27の答え分かる?
分からなかったら救急車呼ぶけど……」

いつの間にか回復したらしい淳君が背後から声をかけて来る。

――せめて1+1にしてあげようよ……。

私が心の中でツッコんでいるうちに、城島君が晴れやかな笑顔で「分かりません」と答える。

「城島君は頭打ってなくても熱がなくても常にこういう子だから……」

慌ててフォローを入れると、唖然としていた淳君は、更に目を見開いた。

それはまるで、本物のバカを見たかのような表情だった。