私の向かい側に腰をおろしたのは、ひまわりの家で暮らしているという安藤千尋さんだった。

彼女が石田君と付き合っているのだと、野球部の人たちから教えられた時は、少しばかり納得してしまった。

3年間石田君と同じクラスに在籍していた彼女とは、2年の時だけ私もクラスメートになった。

石田君と話しているところはたまに見かけたけれど、女子生徒と話しているところはまったく見たことがない。

いじめられている訳でも避けられている訳でもなく、単に生徒たちの意識の中に入り込まないような、そんな存在だったような気がする。

「久しぶり……」

声をかけてみると、彼女はすぐに顔をあげ、小さく申し訳程度の会釈を返してくれた。

「安藤さん、最近学校来てなかったんだっけ……」

石田君が遊園地で言っていたことを思い出して訊ねると、彼女は頷いた。

「ただの風邪だったんだけど……ちょっと休んでる間に授業についていけなくなっちゃって」

何度もつっかえながらゆっくりとそう言うと、彼女は肩を竦めて少しだけ笑った。

安藤さんはスラスラと喋ることができないせいで、彼女が授業中当てられると教室は静かな笑いに包まれる。

喋らなければいけない授業になると、彼女はいつも申し訳なさそうに俯いて、眉をしょんぼりと下げていた気がする。

そんな子だったから、石田君に選んでもらえたのだと思う。

「同じクラスに石田君は全っ然ノートとってないもんね」

保健医さんが言うと、安藤さんはまたおっとりと笑った。

「亜衣君が、ノートは作ってくれてるんです……。
すごく、分かりづらい……んです、けど……」

ゆっくりとそう言って、安藤さんは恥ずかしそうに俯いた。

「鈴木君、ノートの取り方雑だもんね」

私が言うと、彼女はまた笑顔のまま何度も何度も頷き、申し訳なさそうに顔を伏せた。