教室へ1度、文房具だけをとりに戻った。

淳君はすでに登校してきていて、私を見ると少しだけ視線を下げて分かりづらい会釈をした。

「試験勉強、できた?」

声をかけると、彼は膝の上に広げていたファッション誌を直ぐに閉じて「一応」と頷く。

「私、今日は保健室で受験することになってるから。体調不良ってことにしておいて」

教室の隅で友人たちと話している清水さんをさりげなく窺いながら、小声で伝える。

淳君は興味なさそうに「フーン」と言うと、またすぐにファッション誌を広げ直した。

相変わらず愛想がないなと呆れながら、私は教室を出た。

3年生になってから、生徒があまり通らない廊下ばかりを選ぶようになった気がする。

特に目立ったことをしている訳でもないというのに「3年の風野」という名前は何故か妙に有名で、他学年にまで覚えられてしまっていた。

一体私が何をしたのだろうかと思いつつも、自分の悪い噂は耳に入れたくない。

やましいことがないのに、逃げるような毎日を送るしかなかった。

1人という寂しさに泣きそうになりながら、私はチャイムに急かされて保健室へと向かった。