放課後。

グラウンド横の芝生でカップケーキを食べていた男子2人は、私に気付くと口をもごもごとさせたまま手を振ってくれた。

「どっちがもらったの」

私が言うと、井上君がサッと浅井君を指さす。

「井上ももらってたじゃん。一緒に持ったせいでどれが誰のか分からないけど」

浅井君がケラケラと笑いながら、丁寧にラッピングされたカップケーキをまた1つ開封する。

「そういうのって、ちゃんと食べるんだ……」

先刻のダストシュートに吸い込まれていった大量のケーキを思い出しながら言うと、浅井君は「石田のこと?」と明るく言った。

「俺ら別に女子の手作り料理とか抵抗ないもんね」

井上君に同意を求められた浅井君は深く頷く。

「男子の手作りカップケーキとかだったらちょっと抵抗あるけどな」

浅井君の言葉に井上君は小さく笑って、またすぐに無表情へと戻った。

「石田君は、手作りが嫌な訳ではないと思うよ。
ただ、食べられないことが恥ずかしいから、そうやって嫌な言い訳をしちゃうんだよ」

井上君は静かな声で言い、両手を叩いて手についた粉を払い落した。

「嫌な奴だなんて、あんまり思わないであげようよ。
石田は石田なりに、一生懸命やってると思うし」

井上君はゆっくりと立ち上がり、その場で大きく背伸びをする。

グラウンドから笛の音が聞こえてきて、「練習始めるぞ」と梶君の声が聞こえた。

井上君と浅井君は私に軽く手を振って、グラウンドへと走って行く。

――やっぱり大人だ、あの2人。

その背中に手を振りながら、ほぅと溜息をついた。