壁に靠れたまま、城島君はボールを宙へと放つ。

ボールは綺麗に弧を描いて、2階の観客席へと入った。

「居残りって、趣味の?」

座ったまま訊ねると、城島君は私を見下ろした。

「違うよ。先輩にやれって言われたからやってるだけで」

そう答え、彼は私の横に腰を下ろす。

「先輩たちが帰ってるんだから、サボってもバレないでしょう?」

誰もいない館内を見渡しながら言うと、笑われてしまった。

「真面目そうなのに、意外に適当だね」

城島君はそう言いながら、またタオルで口を押さえ、くしゃみをした。

「それに、練習に出られていない時間が多かったのは、城島君じゃなくていっ君とか井方君なんじゃ……」

開始から随分と遅れていっ君は入館したし、井方君に至っては最後の方しか部活に参加できていなかったような気がする。

彼らは練習時間の補足をしなくても良いのだろうか。

城島君は鼻をすすりながら「いっ君は……」と切り出した。

「いっ君は、頑張っているから。こんなことしなくても良いんだよ。」

頑張っているということを周りから評価されていたいっ君に対して、城島君は天性的な運動能力を買われている。

2人が対称的な人物であるということは、今日2階から見ていて初めて分かった。

「フクツって言われてるんだよ、いっ君は」

城島君はまるで誰かから聞いた言葉を繰り返すかのように言った。

あまりにも片言な発音だった為に、フクツという言葉を不屈と変換するのに、私は少しだけ時間を要してしまった。

「何でも自分1人でやれて、自分のことは自分で管理しているから。
周りが口を出す必要もない。
逆に俺は跳んだり投げたりしてるだけで、誰かに何か言われない限り1人じゃ何もできない馬鹿だから。
指示されたことは絶対にやらないといけない……っていうか」

そこまで言って、城島君は口を噤んだ。

膝に顔を埋め、深く息をつき、彼はもう1度顔を上げる。

「先輩たちから見た俺って、可哀想かな?」

改めて問われると、私は言葉に詰まってしまった。

城島君が自分の境遇に納得しきれていないということ、割り切れないということ。

彼が隠そうとしてきたことが、少しだけ分かったような気がした。

「心配ってだけで……可哀想とは思ってない……」

私が答えると、城島君はまた膝に顔を埋めた。