掃除が終わってから、私は観客席最前列の隅に腰をおろした。

できるだけ気付かれないように暗幕の影に座ったせいで、少しだけ視界が狭くなったけれど、肉眼で館内を見渡せることができた。

ホイッスルによって練習時間は区切られているようで、ピッピと音が鳴るたびに、部員たちは姿勢を正して別のメニューを始めていた。

いっ君が入って来たのは部活が始まってから15分くらい経った頃のことで、芳野君が直ぐに駆け寄って行った。

何やら話した後に、芳野君はいっ君の肩をポンポンと叩き、いつもの調子で何か声をかけていた。
それに対し、いっ君は不愉快そうに彼の手を振り払い、男子更衣室へと入って行く。

「おい墓屋!」と3年生が怒鳴るのが、ボールの弾む音に覆いかぶさり、私まで肩を跳ね上げそうになってしまった。

芳野君はすぐに3年生を宥めて、練習へと戻って行く。

――上級生にあんな態度取るの!?

かなり感じの悪い態度をとったいっ君に対して、3年生はかなりの不平を口にしていたものの、彼が更衣室から出て来るとピタリと口を噤んだ。