翌朝。

下駄箱のところで芳野君と井方君と鉢合わせになった。

「早いんだね、風野さん」

笑顔で声をかけてくれたのは芳野君の方で、私は通り過ぎようとしていた足を慌てて止めた。

「2人は、部活?」

スクールバッグをリュックのように肩で背負った2人は、いつも通りにだらしなく制服を着崩していた。

井方君は腰をカーディガンで絞り直しながら、上履きに踵を入れる。

「うん、今から。
良かったら風野先輩も見に来る?」

井方君はそう言ってから、同意を求めるように芳野君へと視線を向ける。

「今日は顧問も来ないし、2階の観覧席から見てもらって構わないけど」

芳野君がそう言い終わるのとほぼ同時に、2年生の下足室入口から金髪の男子が2人入って来た。

歩くたびにジャラジャラと金属音が響く、マスクで顔の半分を隠したいっ君。

そして、いっ君と背恰好の似た少し小柄な金髪の男子。

「おはよう。いっ君、わん子」

手際よく靴を履き替える彼らに芳野君が声をかける。

わん子と呼ばれた男子はすぐに顔を上げて「おはようございます」と挨拶をしたものの、いっ君の方は誰とも視線を合せることなくその場で小さく頷くような会釈をしただけだった。

サッサと下足室から出て行くいっ君の後を、もう1人の男子も慌てたように追っていた。

「あの子、初めて見たかも」

まるで犬のようにいっ君を追いかけて行った男子。

恐らくバスケ部なのだろうとは思ったけれど、あまり記憶になかった。

「わん子って呼ばれてる子。浦和一郎。いっ君と名前が一緒だし、後ろ姿も結構似てるし、2人で1つって感じの奴。
サツキは仲良いんだよな」

芳野君に聞かれた井方君は軽く頷き、「それなりに」と呟いた。

「俺らもそろそろ体育館行くか。着替えないといけないし」

芳野君がそう言うと、井方君はまた私を振り返り、ソッと手を差し出して来た。

彼は女子と手をつなぐことに抵抗がないのだろうかと、少しだけ疑問に思いながらも私はその手を握り返すことはしなかった。

「私、今日は日直だから」

そう断ると、井方君は小さく笑ってすぐに手をポケットへと突っ込んだ。