時計は5時を指していた。

「チョーク飲んだら美声になるって本当なのかな……」

石田君の一言にめぐちゃんがパッと顔を輝かせて、自分に靠れかかって眠っていた淳君の肩を揺さぶる。

「ねぇねぇ、淳!ちょっと喋ってみて!何か喋ってみて!」

淳君の代わりにジュースをすべて飲み干した梶君は、まだ違和感があるのか胸をさすりながら「ねーよ」と不機嫌に低い声で言った。

あの後、梶君と井上君が交互にジュースを飲んで、中に入っていたのがチョークの粉であると教えてくれた。

チョークなんて食べたこともない私はどんな味がするのかまったく分からなかったけれど、男子たちは納得したように首を縦に振っていた。

私たちが入学した年にも校内で販売されているジュースに異物が混入されるという騒動が起きていて、その時は確かグラウンドの砂か何かが入っていたような気がする。

生徒の悪戯なのか業者のミスなのか、その当時もまったく分からなかったけれど、暫く自販機が販売停止になると、その騒ぎも忘れられてしまった。

「喉痛いんだけど、これ明日までに治るかな」

淳君はソファに座ったまま石田君を見上げる。

帰り支度をはじめていた石田君は、パッと淳君を振り返り、「大丈夫」と短く言った。

「恭子さんに連絡入れてあるし、治らなかったら1日休めばいい」

恭子さん、という名前に淳君は小さく眉をひそめて、まためぐちゃんの肩に軽くもたれた。

恭子さんというのが2人のお母さんの名前だということを思い出すのに少しだけ時間を有した。

「淳君が休むと私、心細いんだけど……」

私が小声で言うと、ずっと隅の方で井上君と話し込んでいた浅井君が明るい表情で振り返った。

「風野さん、またいじめられてるの?」

満面の笑顔で言われ、若干傷付きながら、私は浅井君から視線を外した。

「浅井、お前そのストレートな物言いなんとかならないの?」

梶君が呆れたように言いながら、自分の分と淳君の分とめぐちゃんの分の鞄を一気に持ち上げた。

私たちもバラバラと席を立ち、閉館間際に図書館を後にした。