ジュースが温くなるといけないので、私たちは体育館を後にした。

図書館へと戻るとみんなはもう勉強を終えていて、飲食スペースでテスト後の予定を立て始めていた。

「遅い!」

帰ってきた私たちにめぐちゃんが唇を尖らせる。

片手で謝る私を余所に石田君は空いたテーブルの上にジュースを並べていく。

「梶が珈琲で、めぐがレモンティーで、浅井がコーラで、井上が水で……」

ポンポンと1人1人に飲み物を投げ始めた石田君を、慌てたように梶君が止める。

「石田!炭酸は投げたら駄目だ!」

梶君が言い終わる前に缶を開封した浅井君が「うわ……」と控えめなリアクションをした。

井上君が鞄からタオルを取り出して、缶を持ったままの浅井君の手にそっと掛けた。

「淳は何だっけ……」

浅井君と井上君のやり取りを無言で眺めていた石田君がパッと淳君を振り返る。

男性用のファッション誌を読んでいた淳君は、気まずそうに顔を上げて「ブドウ」と小声で言う。

他のメンバーには炭酸まで投げ渡ししていたクセに、石田君は淳君にだけ手渡しをして、彼の隣りに腰を下ろした。

「綾瀬、何も買わなかったの?」

ストローを指しながら淳君に言われ、私は頷く。

「風野が何か飲んでるとこ、見たことないかも」

梶君にまで言われ、「そんなことないよ」と言おうとした時だった。

喉を鳴らした淳君が慌てたように口を片手で覆い、持っていたパックを床へと投げた。

何事かと硬直する皆をよそに、石田君が取り出したハンカチを弟に持たせる。

喉を通らなかったジュースがハンカチと手を抜けてボトボトと床へと零れ始め、潔癖症の浅井君が少しだけ顔色を変えた。

何度か咳き込んだ後、淳君は私へと視線を移した。

「これ、何か入れた?」

恐る恐る聞かれ、私は慌てて淳君の横に座っている石田君を見る。

石田君は真顔のまま首を横へと振ると、淳君の背中を擦った。

床へと落ちたパックを井上君が拾い、手の中で転がす。

彼はしばらくパックを眺めてから、「あった」と小声で言った。

「小さく穴が開いてる」

井上君にパックを受け取った石田君は、指摘された場所を見て顔を顰めた。