体育館脇の花壇には、2年のバスケ部員数名が腰をおろしていた。

彼らの中で唯一立っていた井方君が、私と石田君に気付いてパッと表情を明るくしてくれる。

「風野先輩、久しぶり」

笑顔で控えめに手を振られ、私も低い位置でそっと振り返す。

「井方って風野先輩と仲良いの?」

花壇に座っていた男子たちに問われると、井方君は慌てたように首を横へ振った。

「あんまり話したことないよ」

リストバンドの位置を直しながら言う井方君に、私もソッと同意した。

遠足以来、廊下ですれ違って挨拶をすることはあっても、ゆっくりと話すような機会はまったくなかった。

縮まったように見えた仲も、また開き始めていた。

それでも、何かの拍子でミラーハウスでの出来事を思い出すことがある。

もっと仲良くなれたらとたまに思ったりもした。

「城島君、いないね」

思いついて私が言うと、彼らはパッと顔を見合わせた。

皆から視線を殊更送られた井方君は、親指で体育館を指さす。

「まだ中だと思う」

彼の指の先を辿ると、丁度扉が開き、数人の男子たちが出て来た。

冷房が付いていないというのは本当らしく、シャワーを浴びた後のように髪を乱した生徒たちは、首に掛けたマフラータオルで乱暴に汗を拭う。

その中に、いっ君の姿があった。

「暑くないの?マスク」

同級生たちからケラケラと笑いながら訊ねられた彼は、表情1つ動かさず、顔を覆っていた真っ白なマスクを顎の下までずらす。

「別に平気だけど……」

低い声を溢した彼の薄い唇には、銀色の厳ついピアスが何個も通っていた。

遠足の時は遠くで見ていたから気付かなかったけれど、近くで見るとギョッとする。

「城島ってまだ中?」

井方君に訊ねられたいっ君は一瞬だけ眉根に皺を寄せ、何も言わずに校舎へと敷かれたすのこの上を歩いて行ってしまった。