「本当に試験範囲大丈夫なの?」

自販機でジュースを選びながら訊ねると、背後から「余裕」という言葉が返ってきた。

この人の平気や余裕はあてにならない……。

心の中で溜息をつきながら、取り出し口に落ちてきた缶コーヒーを石田君へと手渡した。

「あ、俺はいちごオレで……」

思い出したように言われ、私はもう1度100円玉を入れていちごオレのボタンを押した。

全員分のジュースは石田君が持ってくれて、私は申し訳ないことに手ぶらで戻ることになってしまった。

言い出したのは自分なのだから全て持ちたかったけれど、石田君に意見するようなこともできなかった。

図書館へと早足に戻ろうとしていた時だった。

パッと目の前をユニホーム姿の男子が横切って行った。

僅かな太陽の光でオレンジ色に光る髪が、一瞬で目に焼き付いた。

「バスケ部って、まだ練習あるんだ……」

松林では、試験1週間前はすべての運動部が活動を停止するという決まりになっている。

文化部は勉強に差し障りのない程度になら活動が許可されているものの、スポーツは両立を取るのが難しいことを理由に校則にまで入れられていた。

「大変だよね。こんな暑い中冷房なしの体育館で夕方まで。

あそこの部員っていつも赤点ギリギリの点数しか取れないらしいし」

石田君が呆れたように言いながら、渡り廊下から足を外した。