昼休み。

購買へと向かう廊下に、黄色い悲鳴が響いた。

何事かと思い振り返ると、石田君が歩いて来るところだった。

「超カッコいいよね、石田先輩」

下級生たちがそんなことを言いながら遠慮がちに石田君へと視線を流す。

何人かが駆け寄って行って、調理実習で作ったケーキを石田君へと手渡していた。

彼はそのすべてを受け取って、「ありがとう」と1人1人に笑い掛ける。

――営業スマイルってああいうことを言うんだな……。

私は呆気にとられながらその光景をジッと見ていた。

「カッコいいけどちょっと怖いよね、あの人。

冗談通じないくらい神経質らしいよ」

私の横で足を止めた2年の女子たちが小声でそんなことを言った。

「それ知ってる!

ノリで腕組もうとした女の子のことむっちゃ強く振り払ったんでしょ」

「ケーキ受け取る時もさ、指がちょっと触っただけで顔しかめてくるし、なんか傷付くよね」

「女嫌いって噂マジなのかな」

「やだぁ、ホモなの?」

――言いたい放題だ……。

顔を伏せながら、少しだけイラッとしてしまった。

彼女たちのひそひそ声が聞こえているのか聞こえていないのか、石田君は一通り女子たちの相手をすると、群れをかき分けて私のところへとやってきた。

「いたんなら声掛けてくれれば良かったのに」

無表情のまま言われ、私は「ごめん」と小声で言った。

「邪魔したら悪いかなーって……」

私の言葉に石田君は無言で首を横へと振ると、購買へと歩き始める。

私も慌ててその後を追わせてもらった。

背後から「出たよ風野先輩」という低い声が聞こえてきた。

悪口、悪口、噂、陰口。

もう慣れっこではあるけれど、どうしても気にはなってしまう。

「注意してこようか?」

石田君に言われ、私は「気にしてないから」と笑う。